お金も時間もないなかで結果を出すたった1つの方法とは???
ベトナムで発見され、世界中で成果を上げているにもかかわらず、
日本ではまだあまり知られていない、だれにでも実践できるアプローチ
急に結果を出せと言われても・・・
フツーに無理だと思われる結果を短い期間で達成せよ、と言われたことありませんか?
「今月は先月の売上の2倍達成するように!」
「来週までにダントツに面白い企画を提出してくれる?」
などなど・・・
そんなとき、あなたならどうしますか?
何か良い方法を求めてセミナーに出たり、本を読んだり、ネットで検索してみたりしていませんか?
想像してみてください。こんなとき、ドラえもんのポケットから出てくるような、頼りになる秘密兵器がお金をかけずに手に入ったなら・・・
それさえあれば、短期間に結果を出せ、といわれても動じることなく、自分の実力を示す良いチャンスだと思い、高い目標達成に向けてワクワクしながら働いている姿を・・・
そして、当初の目標以上の成果を出し、周りから「スゲーなあいつ」という賞賛と驚きの目で見られることを・・・
ベトナムで発見された秘密の方法
そんな魔法のような方法が実はあるのです。それは1990年にベトナムで発見されました。
NPO組織、セーブ・ザ・チルドレンのフィリピン・オフィスのディレクターをしていたジェリー・スターニンは、米国本部からベトナムでオフィスを開設するように指示されました。
当時のベトナムでは、子どもたちの栄養失調が深刻な問題となっており、ベトナム政府からこの問題を支援するように要請があったのです。ただその頃はまだベトナム戦争の傷跡が深く、ベトナムでは反米感情が依然として強い状態でした。
まさにアウェー状態でジェリーはベトナムへと乗り込んでいったのです。
「6か月で結果を出してください。そうすればビザの延長を認めます。もし結果が出ないようならベトナムオフィス開設の話はなしです。ただし、資金の援助は一切できません」
これがハノイに到着早々、ベトナム政府高官から言い渡された条件でした。普通、栄養失調問題を解決するには多額のお金が必要です。まずは子どもたちに栄養補助食を配布し、栄養状態を改善することから始めなければなりません。
しかし、それには莫大な資金が必要です。ベトナム政府は一銭もお金を出さず、セーブ・ザ・チルドレンの予算も限られていました。
ジェリーは、さまざまな関係者に会い、お金がないなかで半年以内にベトナムの子どもたちの栄養状態を改善するにはどうすればよいか議論を重ねました。しかし、よいアイデアは得られませんでした。まずは支援対象となるベトナムの村を選定しました。とても貧しい村です。栄養豊富な食材を買う余裕のない家庭ばかりです。
そのとき、ジェリーはあることをひらめきました。
「この村の最も貧しい家庭のなかで、栄養失調ではない子どもがいるところはないだろうか?」
このひらめきが、その後の目覚ましい成果の始まりとなったのです。
ジェリーは早速、村の人たちと協力し、最も貧しい家庭を数件抽出し、そこで栄養失調になっていない健康な子どものいる家庭はないか探しました。
すると、実際にそのような家庭が数軒見つかったのです!
かれはチームを組み、そのような家庭を訪問しました。そこではいくつかの創造的な方法が実践されていたのです。
たとえば、これらの家庭では、朝早くに水田に出かけ、そこでカニやエビをとってきて、それを食材にしていました。ベトナムでは、これらは日本でいうカタツムリのようなもので、食材としては考えられていませんでした。私たちも、カタツムリを食べろ、と言われたら少し引いてしまいますよね。
もちろん、フランスではエスカルゴとして高級食材であることはご存じでしょう。カニやエビも日本でいうカタツムリのようなものでした。これらをこの最も貧しい家庭では、食材にしていたのです。
それ以外にもいくつかの斬新な方法がとられていました。ジェリーはこの発見をもとに、村全体で発見されたアプローチを実践するように働きかけたのです。
その結果、6か月後に、子どもたちの体重測定をしたところ、プログラムに参加した子どもたちの40%以上にな245名の子どもたちが完全に栄養状態を回復しており、20%が重度から中程度の栄養失調状態へと改善したことがわかったのです。ジェリーは、確かに結果を出したのです。
片隅の成功者から学ぶPDアプローチ
これがポジティブ・デビアンスと呼ばれるアプローチです(簡略化して、PDアプローチと呼びます)。簡単に言えば、身近にいる決して目立たない片隅の成功者から学ぶ、ということです。
常識的には、これと逆のことをやってしまいがちです。本を読んだりセミナーに出たり、ネットを検索するなどして、外の成功事例を探してしまいがちです。これはベスト・プラクティスと呼ばれる手法です。けれども、それは「ベスト」であるがために、容易に使いこなせないことが多いのです。アインシュタインのマネをせよ、といわれてマネできる人はどれだけいるでしょうか・・・
たとえば、「Googleでは***というやり方で成功を収めた。ひいてはわが社でもこれを実施したい」と上司に言われて、「ぜひそれをやってみよう」とあたなは心底思いますか?普通は、「それはGoogleだからできたことで、うちの会社じゃ到底無理」と反発するのではないでしょうか。
それに対してPDアプローチは、同じ組織のなかにいる人の成功事例をマネるので「Googleとは違う」という言い訳は成立しません。PDアプローチで発見した新しい方法は、反発を招きにくく、実行しやすいものなのです。
実は私たちの多くはそれとは意識せずに、このアプローチを採用してきたのではないでしょうか。文献などから学ぶのではなく、身近なロールモデルから何かを盗み、それを模倣して成長した経験はありませんか?
たとえば、3度の三冠王に輝いた落合博満さんは、その独自の神主打法を、ロッテの同僚で先輩であった土肥健二選手から盗んだと語っています。土肥選手は実働14年で497安打、規定打席に達したことが一度もない選手です。つまり、決して一流ではない身近な片隅の成功者から落合さんは打撃フォームを盗み、自分のものにしていったのです。一方、名球会入りした元一流打者、山内一弘監督(当時)の指導には、「俺のことはほっといてください」と反発し、決して受け入れようとはしませんでした。
あなたも、過去を振り返れば、何か大きな成長を遂げたキッカケは、このように身近な人から何かを盗んだということはなかったでしょうか。もしそのような経験があるようでしたら、あなたはすでにPDアプローチを実践して成長してきたことになるのです。
PDアプローチの成功事例
このPDアプローチは、アフリカの31カ国、アジアの10カ国、ラテンアメリカの5カ国で使用されており、米国とカナダの数十の事例で活用されています。適用事例は無数に公表されていますが、いくつか指摘すると次のようなものがあります。
- ニュージャージー州とペンシルベニア州の都市部貧困地域にある学校での犯罪暴力の減少
- 南アフリカでの黒人起業家の成功率の向上
- エチオピアのアファル人遊牧民に代わって紛争地の市場へのアクセスの提供
- ニューサウスウェールズ州の刑務所でニコチン中毒になっている受刑者のうち70%の禁煙成功
- ケニアでの汚職の削減
- コネチカット病院での終末期ケアとQOD(クオリティ・オブ・デス)の改善
- カリフォルニアの学校でのマイノリティの高い中退率の削減
- インドネシアでの少女の性的人身売買の削減
これら以外にも数多くの成果が、ポジティブデビアンス・イニシアチブのWebサイト
で閲覧することができます。企業でも、メルク、ジェネンテック、ゴールドマンサックスなどでの適用・成功事例が報告されています。
窮地を脱するため、コンサルに頼ってはいけない!
このPDアプローチの特徴は、外部の専門家、コンサルに依頼するのとは異なり、自らが問題の解を発見することにあります。そのため、かれらに高額のフィーを支払う必要はありません。自らで問題解決をするからこそ、PDアプローチを用いた場合、持続的な成長が可能になるのです。
たとえば、栄養失調問題を解決するために即効性のある方法は、栄養補助食を提供することです。しかし、これは持続可能な解ではありません。支援が打ち切られると、栄養補助食はなくなり、結局元の栄養状態へと戻っていくことになるからです。解決を持続可能にするためには、外部ではなく身近なところから学ぶ必要があります。PDアプローチは、持続可能な問題解決の唯一の方法なのです。
そこで必要なのは、自らの創意工夫、努力、時間を惜しまないということだけです。
PDアプローチの落とし穴
しかし、ポジティブ・デビアンスを適用するには、いくつかの落とし穴があります。それは「身近な人から盗めばよい」といった単純なものではありません。
PDアプローチを適用したと思っていても、実は自分の考え方を押し付けただけであるというケースも多く見られます。また、PDで新しい発見があっても、上の圧力でつぶされてしまい、組織で普及しないことも多々あります。
わたしは、ジェリー・スターニン他が執筆したPDアプローチのバイブル、『POSITIVE DEVIANCE(ポジティブ・デビアンス)』(東洋経済新報社)を2021年に翻訳しました。この本では、PDアプローチの基本的な考え方やいくつかの成功事例が示されています。
しかし、読者からは、
「面白そうだし、是非、PDを適用したいのだけど、これを具体的に始めるにはどうしたらよいかいま一つわからない」
という声が少なからず寄せられています。
より体系的でシンプルにこのアプローチを適用していくためには、効率的な手順にしたがい、各段階でテンプレートを用いたセルフチェック、軌道修正を重ねていくことが成功の鍵となります。
また、身近な実例をもとに、ポジティブ・デビアンスのアプローチを適用する演習をいくつか重ねることも大切です。
もちろん、このアプローチは万能ではありません。適用できるところと、そうでないところがあります。そのようなことを含めて、ポジティブ・デビアンスについて学び、明日からでも短期間で結果を出すために活用してみませんか?たとえば、次のような問題解決に適用することができます。
- 部下から信頼されるようになり、リーダーシップを発揮したい
- 営業成績を高めたい
- ヒットする商品企画をつくりたい
- 同僚と差をつけたい
- 企業の業績を高めたい
- 従業員のエンゲージメントを高めたい
- 職場の心理的安全性を高めたい
- 短期間でテストの成績を上げたい
学び方を学び、充実した人生を!
ところで1つ言い忘れていたことがあります。ポジティブ・デビアンスとは、学習アプローチです。これを学ぶことは、「学び方を学ぶ」ことに他なりません。確かに、人生の特定の時点で短期間に結果を出すことは重要です。それがなければキャリアアップは難しいでしょう。
しかし、人生はその後も続いていきます。人生とはいわば学習の連続です。効率よく学び続けることが充実した人生につながります。そのためには、「学び方を学ぶ」必要があります。PDアプローチは、効率的に「学び方を学ぶ」ための、世界的に実績のある唯一の方法なのです。
参考文献
- 「ノルマ未達組織が売上30%増を達成できた理由組織を変えるのは天才ではなく「凡人のまね」」
https://toyokeizai.net/articles/-/419992 - 「成果を出せない「コマドリ」組織の残念な思考成功率の低い「トップダウンのゼロベース改革」」
https://toyokeizai.net/articles/-/417093 - 『POSITIVE DEVIANCE(ポジティブデビアンス)』(訳・解説)東洋経済新報社, 2021年.